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同法撤廃の根拠とされたのは、様々な業務を兼営することで経営資源の効率活用が可能となる「範囲の経済性(エコノミーズ・オブ・スコープ)」や、顧客の利便性に資する「ワン・ストップ・ショッピング」だった。
他方、懸念された利益相反の問題は、銀行と証券子会社の人的交流や共同マーケティング活動を制限する。 こうした疑問点が残るばかりでなく、証券業務の全面的な展開を認められた銀行が、証券投資の「ファイャーウォール」などの組織・情報規制で回避できると主張された。
わが国では、もっぱら審議会を舞台にした議論や駆け引きが続いたが、米国では、銀行持株会社を監督する連邦準備制度理事会(FRB)が、銀行持株会社の証券子会社による業務拡大を積極的に認可するなど、法律論とは別に、既成事実を積み上げようとする動きも目立った。 結局、一九九九年一一月のグラム・リーチ・ブライリー法成立によって、グラス・スティーガル法の主要条項が廃止され、米国における銀行・証券分離規制は、ほぼ撤廃された(4‐5)。
わが国でも、金融ビッグバンによる法改正で、業際の壁はずっと低くなった。 今や銀行が子会社を通じても手掛けることができない、証券会社に残された独占業務は、株式の売買仲介くらいになった。

それも銀行(あるいは銀行の証券子会社)に認めてしまってはどうかというのが、銀行による株式窓販解禁というアイデアである。 確かに、世界的に多様な業務を兼営する金融コングロマリットが登場し、銀証分離制度が時代遅れに見えるのは事実である。
しかし、二○○二年に米国金融界を揺るがせたエンロン事件をめぐっても、大手銀行グループが、エンロンの経営実態を知りつつ、その事実を投資家に開示することなく社債発行を引き受けたのではないかとの疑惑が持ち上がった。 事実とすれば、グラス・スティーガル法制定時にも問題視されたような、極めて古典的な利益相反の事例である。
預金保険制度によって信用補完されている銀行が、一方的に証券業務を拡大するのでは、公正な競争とは言えないという問題点へ向けた営業活動を積極的に推進するかどうかも不透明である。 実際、銀行と証券を分離しないユニバーサル・バンク制度をとっている欧州でも、株式や社債は証券の専門業者(法律的には銀行だが)が取り扱うことが多い。
もちろん、撤廃しても投資家保護上も競争政策上も問題が生じないような、不要な規制を撤廃するのは当然である。 例えば、二○○三年五月に成立した証取法改正では、金融機関による証券仲介業務は認められないことになっている。
これも銀証分離の考え方に由来するものと思われるが、証券仲介業は、顧客口座を管理する証券会社のために、注文を取り次いだり、顧客への勧誘を行ったりするだけであり、銀証分離の背景にある利益相反や銀行経営の安定性確保には関係がないはずである。 金融機関による証券仲介業務を認めても、銀行自らが全面的に証券業を営むよりは、はるかに弊害が少ないだろう。
ネット専業証券会社の登場、資産管理型営業の試み、証券投資の裾野拡大を狙いとした銀行によるとはいえ、どんなに自由度の高い制度を構築しても、結局、「餅は餅屋」ということで、株式を取り扱うのはもっぱら証券会社ということになり、投資家向けの販売チャネルは広がらないという可能性もある。 今後、更に、銀行による証券業務の規制撤廃を検討するのであれば、せっかくの規制緩和が、一部の悪質な金融業者による利益相反問題を引き起こしただけといった結末を迎えるようなことはないのか、慎重に見極めつつ対応していくことが必要ではなかろうか。
証券業務拡大の動き、とわが国の証券会社をめぐる環境変化の諸相をみてきたわけだが、これらはいれも、もっぱらリテール分野に係わるものであった。 しかし、証券会社の顧客は個人投資家だけでない。

年金や生命保険、投資信託といった、いわゆる機関投資家を相手とするビジネスも重要な領この対機関投資家ビジネスでは、証券会社所属のアナリストによる情報提供が重要な役割を担ってきた。 内外の大手証券会社は、産業セクターごとに専門知識の豊富なアナリストを配置し、産業全体の動向や個別企業の業績などについてそれぞれの見通しを競い合ってきた。
機関投資家は、証券会社ごとの発注シェアを所属アナリストによる分析の的確さや視点の独自性などによって決めるようになり、優秀なアナリストの独得は、証券会社の命運を左右するとさえ考えられるようになった。 機関投資家のファンド・マネジャー等が投票するアナリスト・ランキングで常に上位を維持し、高給で他社に引き抜かれるスター・アナリストも現れた。
ところが、最近になって、そのアナリストに対する批判が強まっている。 その震源地は、不正会計問題で資本市場が大揺れに揺れた米国である。
一九九○年代の後半、ナスダック市場のハイテク銘柄の株価が上昇を続けていた頃、情報通信関連のアナリスト達はスター扱いだった。 ところが、一一○○○年の夏以降、ネットバブルが崩壊すると、彼らは一転して無能呼ばわりされ、投資家から訴えられるケースまで出てきた。
二○○二年五月には、ニューヨーク州の司法当局が、最大手証券会社Mとの間で、一億ドルに上る制裁金の支払いやアナリストの人事評価、報酬体系の見直しなどで合意に達した。 州側は同社に所属するアナリストの判断が、投資銀行ビジネスをめぐる同社と企業との関係によって歪められたと主張し、州法の禁じる詐欺的行為にあたるとして司法手続きを始動していたのである。
アナリスト個人に対する刑事訴追をもちらつかせた当局に、M側は、法的責任を認めない和解という形ではあったが、事実上全面的に屈服した。 更に、七月には、不正会計問題がきっかけとなって経営破綻したエンロンの問題をめぐる議会上院の公聴会で、同社から投資判断について苦情を言われたMのアナリストが、会社上層部の圧力を受けて退職に追い込まれたとされる問題が取り上げられた。
M以外の証券会社も、相次いで、アナリストの報酬体系の見直しや投資推奨に関するモニタリング強化などを打ち出した。 その後、二○○二年一二月には、SECなど監督当局とMを含む証券会社一○社との間で包括的な和解が成立し、改めて証券会社側が、総額一四億ドルという巨額の和解金を支払うことが合意された。
株式市場は、様々な情報を解釈し、企業価値を適正に反映した株価を形成することで、資源の効率的配分を可能にする。 株価形成にあたって、個別企業を分析し、投資判断に資する情報を提供するアナリストの役割は大きい。
それだけに、アナリストが中立性を欠き、発行企業側に偏った立場から情報を提供したとすれば、由々しき問題である。 アナリストを信頼した投資家は願されたことになりかねない。
事実、ニューヨーク州の司法当局をはじめとする監督当局はそう主張したのである。 監督当局がアナリスト問題の調査に動いた最初のきっかけは、発表されているアナリスト・レポートのほとんどが、「買い」や「強気の買い」を推奨するものだという実態調査の結果であった。

アナリストが中立的であれば、「売り」を推奨するレポートも「買い」と同数くらいあってもよいはずというのが当局側の主張であった。
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